狩る トンボ
砂木

小さな蛇のミイラも大雨で流されて
ほっとしていた
蟻に狩られた子蛇
もしかしたら毒蛇の子で
しっぽしか食べられなかったのかもしれない
食べた蟻は死んだのかもしれない
助けを呼ぶように身をくねらせていたから
視界から消えて ほっとした
それなのに

今朝は同じ場所に妙な者がいる
やけに色のないぐにゃりとした体が
こんがらがっていて蝶でもない
少しぴくぴく動く
その体の上の方に 脱皮したような殻がある
蟻地獄 ああ蟻とかを食べるトンボの幼虫ヤゴ
するとこのぐにゃりと固まっている体は
脱皮を終えて 成虫として体が乾く前に
下に落ちてしまったトンボ
もう どうすることもできない
鳥か また蟻に狩られるのか
じっと立ち竦んでみつめると
色のない手足をバタバタと動かし始める

私はね ムカデの子を殺虫剤で殺したんだよ
助けられないんだよ
ああ 違う 私はあなたを殺す気はないよ
でも 助けられない

また馬鹿げた自問自答の中で勝手に怯える
こんな雨の朝に羽化をするなんて
でも 羽化するしかなかったの?

墓のないものばかりだ
雨に流されて流されて
蛇も蟻もトンボも私とは関係ないのに
どうして私の本性を こんなに試すんだろう
偽善ばかりで悪いなら生まれて悪いのか

刈られた草が 風に運ばれ雨に匂う
陽に乾いて枯れても柔らかく土をおおう
繁ることこそ 墓の名であると
守り人の杖が黙る


 


自由詩 狩る トンボ Copyright 砂木 2010-07-30 22:14:41
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