祖母の乳房
小川 葉

 
 
ひとつしかない
祖母の乳房を
ぼんやりと見ていた
そういうものなのだろう
と思っていた
幼かった私

手術したのだ
その晩
どれだけの悲しみに
打ちひしがれていただろう
そして失った後
どれだけの幸せが
この世界にあることを
祖母は知ることができただろう

ぼんやりと見ていた
ひとつしかない
乳房の祖母がひとつだけ
笑っていた

私とふたつ
命が湯船に
浸かっていた
 
 


自由詩 祖母の乳房 Copyright 小川 葉 2010-06-30 04:02:31
notebook Home 戻る  過去 未来