真夜中の牛乳
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鼓動がいつもより早くて
いきぐるしいので
ねむれない、わたしは


なんども寝返りを打って
いちばんましなポーズで
妥協しようとする


あなたはベッドの一番とおいところに、ただ、いるので
わたしはとどきません


まっくらな外の世界を遮断するカーテン
あってもなくてもどうせおんなじ
さっきから酸素を探してきょろきょろしている
どっちがなんだかまるで
どっちが前だか




どっちが前だか分からないまま
あなたから一番とおいところにいく
わたしは助かりたい

わたしは助かりたい




手探りで闇の中、ベッドから這い出て、ひかりを探した
冷蔵庫の明かりがまぶしい
青、白、草原でそっぽ向いた牛のしっぽ、とんがり屋根、成分無調整、注ぎ口、3.6



コップに半分ついで
冷蔵庫の扉を閉じたら
秩序を感じた、そういう音がした

ソファでひざをかかえて
すこうしずつ飲む

たばこみたいに
お酒みたいに
たいせつに飲んだら
同じだけ、すこうしずつの涙がでてくる

ぱた、ぱた、と
パジャマに涙が吸い込まれる
静かに呼吸して
声を出さず
じっとしていた
助かりたくて



真夜中の牛乳だけがわたしにやさしい



窓の向こう、
マンションの階段の明かり
信号機の移り変わり
鉄塔の赤い点滅
自動販売機の白は洗濯洗剤のCMに出てくるワイシャツみたいな色
わたし以外のだれかが生きている気配
手を伸ばしたら届きそうな外の世界には
わたしを助けようとする人なんていない


ねえ、朝が来るなんてうそみたい
牛乳の甘いにおい
ひざを抱いたままソファに寝ころんだ


このまま眠れそうだけど
どうやら朝が来るのだそうで


日常に捕らえられたふりして
いちばんましなポーズで
妥協しようとする


わたしはソファから立ち上がりベッドに向かう
ぎゅうにゅうのにおいのげっぷ、ためいきのついでに





自由詩 真夜中の牛乳 Copyright ________ 2010-06-07 22:28:02
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