幻視譚
砧 和日
一人の子が転倒した拍子に
持っていた飼育ケースの蓋が外れて
甲虫が飛んでいってしまったことを
なかったことにしたいと思って
その子がもうすぐ起き上がって
気を取り直すまでの空白を用いて
誰かがいるはずのないもう一匹を
ケースにそっと忍ばせた様子を
もう一人の子はじっと見ていた
自由詩
幻視譚
Copyright
砧 和日
2010-05-24 01:36:20