全手動一行物語(51〜60)
クローバー

51
私は空っぽなんだ、と悲痛な様子で訴えてくる私のおなかは、しかし三段もある。

52
彼女は、彼が、時間がないと繰り返さなければ、充分な時間がとれることに気づいて、口で口をふさいだ。

53
その気象予報士は、今まで一度も正しい予報が出来ていないので、皆からの信頼が非常に厚い。

54
喫茶店、いつの間にか、ふたりと呼ばれることに慣れていた。

55
ジャンケンに勝てもせず負けたこともない相手の名前がドリー。

56
少年は、春を歌うウグイスが少女の肩にとまるのを見て、真っ赤になってうつむいた。

57
理想を求めて戦った英雄の背に、彼に倒された理想を求めて刃を立てた新しい英雄の背に。

58
幸せは笑顔に宿ると気づいた王は、民の幸せを願って、笑顔以外の表情に、税をかけることにした。

59
ほつれた私で編んだ彼の隣には、ほつれた彼で編みかけの彼女が半分できている。

60
あまりに見事なバタフライで彼が泳ぐので、彼の日焼けした背に切れ目が入ったとき、誰もが羽化だと疑わなかった。


自由詩 全手動一行物語(51〜60) Copyright クローバー 2010-05-20 19:41:07
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