全手動一行物語(41〜50)
クローバー

41
前向きな人として有名な彼は、後頭部にもう一つの顔を隠しているので、いつも前しか向けない。

42
彼は、彼女が、あなたはまるで風見鶏ね、と非難したのを聞いて、風に向かって立ついい男だろう、と自慢げだ。

43
少年は、父親に似たくない、という気持ちが強いところが父親そっくりだ。

44
彼は、毛皮のコートを着た女性が、服を着たチワワをカゴに入れ、動物大好き、と言っているのを聞いて、首を捻りながらも、わん、と吠えてしっぽを振った。

45
自転車に乗りペダルを踏むと、漕いだ分だけ地球が後ろに流れる。

46
風が、建物に引き裂かれた瞬間に、元に戻りたいと悲痛な声を上げたが、建物の中では、俯いた人々がその音を聞いて自由と呼んだ。

47
商品に針が入れられていることがあるのは、鬼を秘密裏に倒そうと企む一寸法師の子孫の仕業。

48
強欲な老人が、人生の大半を賭けて金が自動的に自分の元に集まるシステムを開発したが、それは以前から、銀行と呼ばれているものと同じだった。

49
彼女が、ドーナツを食べないのは、胸に残った穴に気づきたくないから。

50
後ろ向きな彼女が、後ずさりする先は、未来。


自由詩 全手動一行物語(41〜50) Copyright クローバー 2010-05-14 03:25:21
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