ありえない場所
岡部淳太郎

――昔の旅を思い出して



海沿いの
裏の国をさまよっていた
背後に山が迫る狭い平地で
当然のように道に迷った

時はゆっくりと勾配し
私に追いつきつつあった
いくつかの見知らぬ顔が通り過ぎ
道端にはその土地の名前がつけられた
埃が積もっていた

これまでに巡ってきた
海や街や夜が思い出され
もうこの旅も終りかと
思われた時

  おまえは帰れ

そんな声が聞こえたように思って
山を振り返った
土地の言葉を話す老婆がうつむいて
自らの足下を見つめていた

帰れと言われてももともと
私には故郷などなかった

いったいどこに帰れというのか
とまどいながら
(なおもこの旅に迷ったまま)
私が帰るべき
ありえない場所のことを思っていた



(二〇一〇年五月)


自由詩 ありえない場所 Copyright 岡部淳太郎 2010-05-06 06:46:39
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