宛先のないという名の手紙
クローバー

日曜の浜辺を少女が歩くと
海は境を失って
空気のすべてが海になる

宛先のないという名の手紙
インクが海に溶けだして
魚になって泳いでいった。

悲しそうにうつむいて
少女は機械に話します
「電波の届かないところにあるか
 電源が入っていないためつながりません」

海の境にとどまって
迷子になるのは親なしのカモメ
カモメは漂うたましいのかたち
宛先のないという名の手紙の
一番はじめの住人でした

インクの魚が少女をつつく
少女は袖から綴られて
ゆっくり手紙になっていく

宛先のないという名の手紙
宛先のないところに届け

今日は残念、日曜日
郵便屋さんはおやすみです。
だったら、と少女はジャンプして
空気の海に泳ぎ出す。


自由詩 宛先のないという名の手紙 Copyright クローバー 2010-05-05 23:24:04
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