ブリキと赤とんぼ
しろう



春に迷い込んだ赤とんぼが
ゼンマイをキリキリとうたわせた
ブリキのおもちゃのその中の
ブリキでできた心臓の

あんまりとんぼが赤かったから
ブリキはとんぼに恋をした
おもちゃであることを忘れてしまって
「自分も飛べる」とゼンマイを巻き


歯車が欠けないうちに
つかまえておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと

もうすぐ言葉を忘れてしまう
ゼンマイは巻きすぎて切れてしまった
廃墟に不時着したならば
雨にブリキは朽ちてゆくだろう


言葉を忘れてしまう前に
うたっておかなくちゃ
夕焼け色の赤とんぼ
秋に飛び立つはずだった
うっかりさんのこと

春にひとりきりで誰も呼ぶはずのなかった
赤とんぼのその名を
廃墟に生えた草が濡れるまで
ブリキはうたった






自由詩 ブリキと赤とんぼ Copyright しろう 2010-04-25 23:19:03
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