「未明」に
tomoaki.t


「未明」に、誰もいない路上で、まだ雪にな
ることのない冷たい雨を浴びて、不十分な「
存在感」を薄く薄く展ばし、かつ儚いその「
光」を凪いだ海面のように留めながら、生き
死になどついぞ関係なく、ただ体表に当たる
雨を虹色に反射させて、私に「音律」を連想
させ続けている「何か」があった。
雨の降り始めは記憶になく、初速の小さなレ
コードの回転を、彼女と笑い合ったのが覚え
ている記憶で「最も古い」のだとする。「最
も古い」話を路上の「何か」は好んでおり、
「最も古い」話を知るために「未明」という
時間にそれはある。
相槌を打つのを忘れないよう、ピアノを弾く
間にたびたび手を止め、テレビの花火みたい
な音の一音一音が舷灯に染まり、街が「未明
」の海底を、思い出しては忘れ、忘れてはま
た思い出すように通過していく。
   私たちは、その上で、あるいは海のず
っと深くで、「移動」から逃げながら、絶え
ず様々な光や、鋭角の音に廻り込まれ、いつ
も私たちの方から出迎えたかのような気がす
る。どうも、そんな気がする。
「何か」に、語り掛けるかのように、意識を
向ける。何もかも忘れるのは、まだずっと後
で。「最も古い」記憶は、最も古い意識の影
踏みをするため、陽を待っては、あえず消え
ていく。





自由詩 「未明」に Copyright tomoaki.t 2010-04-20 19:23:43
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