Bibliotheke
10010

◆仄暗い図書館で凡ての文字が魔法のように、炎となった。本質的に材木(materia)を意味する材質がではなく、その本質が燃え上がっているのだ。だが、この幻視は、幻視が見せる炎に照らされてしか見ることはできない。故に真の幻視であることの無限に退行する証明として、一巻また数巻の書物では足りずなおここに図書館を打ち建てねばならなかった。


◆炎は風であり、閉ざされたいくつもの書物の頁を捲り上げていく。 コンピエーニュのロスケリヌスは「《普遍》は声の風flatus vocisにすぎない」、《普遍》は名としてのみ存在すると言ったが、彼が記した書物は一通の書簡を除いて残っていない。美しいヒュパティアも陽の翳す書架の下で埃に塗れて死んでしまった。あちらこちらでいくつもの書物から浮かび上がる文字の群れは確かに最期の時にもあの魔法の言葉を囁いていたのだ、魔法のための言葉ではなく。燃え盛る炎の中で、閃光が、それまで見えてはいなかった図書館の全貌をちらと垣間見せた。その名は蔵書目録にはなく、唯一のアレクサンドリアが繰り返し燃えているのだとわかったが、灰となって風に消えてしまった。


◇どちらの図書館を選ばれますか?


◆逆さまから見ると全く異なる相貌を示す絵というものがあり、そしてまた逆向きに読んでいくと全く異なる筋書きを示す物語もある。それらからなる絵本――

《正面を向いてベッドに腰掛けている、ぼくと君の間には絵本が横たわっていて、頁を君の方に捲ってもぼくの方に捲ってもいつまでも、ぼくと君とは自由です》


自由詩 Bibliotheke Copyright 10010 2010-02-21 13:42:20
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