傘を買う
黒川排除 (oldsoup)

わたしはコンビニエンスストアで傘を買う
ビニール傘だ 貧弱なのは値段のせいだろう
支払いを済ませるまで店主はわたしの顔を見ていた
道路を渡り向かいの建物に入りガラス戸を閉める
と店主もちょうど自動ドアの電源を切る わたしは
薄暗い階段を上るときずっとそのことを考える
四階建ての四階 その昇り階段
鎖を乗り越えて進むと長方形の光が見える
外の明かりが漏れているんだ 扉だ
市長の融通によって開けられている扉だ
屋上 右斜め前にパラボラアンテナ
つめたいコンクリート
わたしはしばらくそこで仮眠をとる
腕を枕にしていると一時間ぐらいで目が覚める
そのあと入念に足跡を拭き取る よだれもだ
使ったワラ半紙は脱ぎ捨てた靴に詰めるとして
アンテナに通信機を繋いだところで午前二時
向こうのビルから様子をうかがっている紳士が
手鏡と懐中電灯で無言の朗読を始めると
屋上の柵の外側でカラスを腕にした少女が横切り
わたしは通信機のスイッチをオンからオフにする
ひとしきり無駄な会話を交わしたふり
をしたのち改めてスイッチを入れること一分
沈黙こそ合図 時は来たれり
気象庁は大雨・洪水・雷・注意報を発令する
すべての家屋の電話機が一斉に鳴り響き
住人が引き戸を蹴破り外に飛び出すと
雨は轟音を響かせながら道路を打ち付けていた
三階! 外人のホイッスルの音が住人を呼び
わたしは屋上から傘を放り投げる
突然の雨のなか 一本の傘を奪い合う群衆
ああ 傘は粉ごなになり破れるも 然り
わたしも傘の後を追って燦然と群衆に降り注ぐ
その際フリーターの肩に攻撃 123ダメージ
サラリーマンが脇腹を蹴ってきた 95ダメージ
わたしはサラリーマンの眼鏡を奪った 14ダメージ
フリーターは職を失った 536ダメージ
自治会長は逃げ出した しかし
コンビニエンスストアの 扉は 塞がれている!
店主は不気味な笑みを浮かべた
混乱しているようだ わたしは孤立した もうだめだ
ちょうど土下座をしようと膝を折ったその時
雲が引き空が晴れ渡り始める午前四時 電話が止む
真っ白に光り輝く空から
次の見取り図が書かれたファックスの紙が無数に降ってくる


自由詩 傘を買う Copyright 黒川排除 (oldsoup) 2004-09-23 02:22:05
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