アマリリス
月乃助
眠たさを誘う 五月の街
Market Street 1200
サンザシの木がほこらしげに 赤い花を咲かせていました
通りを染めるほど 目に映えるほどに
歩きながら目にできる家々の
フラワー・ベッドは、どれも
花の香りにうもれて、
陽の光があふれるばかり
神々しいほどに 手をかざすほどの 春でした
かわいた、優しい風が四つ角に生まれて
人の心を慈しみ つつんだりしたのは、
・
どこへいったのですか
葉の落ちた枝は今 一つ残らず皺だらけで、
ほんの少しの赤い実が、鳥に許しをこうほどに
枝に身をよせる
さびしさばかりが、ふりまかれ
・
おかえりなさい、
帰る場所はちゃんとあるのに、
春の夢をみたくなっただけなのですから、
大事に箱につめては
ベッドの下に押し込んでおいたのに なにも残っていないなんて
そこからは、いま
朽ち葉のすえたにおいさえも してくる
・
肌恋しい
冬の夜に
咲くアマリリスの花 一りんがあってくれたら、
黒く投げ捨てられた寒い夜を 春の想いは
男のにおいに似た 身の
それに抱きしめられたような気がするのです
その腕の中で眠ることを願いながら
毛布のなかに入れてやって、
・
次の雪が舞い落ちてくる前に
早く眠りにつかなければ、
花をなくしたと、問い詰められた冬の
代わりに、春を想い出すのも
今宵は、よいのかもしれない
・
あたたかな毛布のなかで
その時は、
あたしが、あたしにもどれそうで、
それって、うれしいのです