石炭船の船長の話
狸亭

フィリッピンの
バタンガス地方
カラカの
小さな漁村が消え
三〇万KW石炭火力発電所 出現

あつい日盛りで
海には風もない

遥かセミララから
ふるぼけた石炭船が着いて
なんにもない 殺風景な船長室で
キャプテン・ガルシアに会う

キャプテン・ガルシア
やせて小柄でいろくろで精力あふれて
目も口も やけに大きく笑っていて

あつい日盛りで
海の風はものうく
石炭をおろすクレーンの音が重い

おおジャパニーズ
わしはジャパンが大好きさ
子供の頃から
ジャパニーズの船長について一人前になって
はじめての遠洋航海もジャパン
ジャパンの港
みなとみなとの おおジャパニーズガールたち
女の子にはもてたものさ
ヨウコサン ヒロコサン ケイコサン

あつい日盛りに
海を吹く風がゆれ
石炭をおろすクレーンの音がぼんやり遠い

いっしょうけんめい働いて
いっしょうけんめいラヴをする
お金をいっぱいためこんで
思い出をいっぱいためこんで
四〇すぎたら船からあがる
海は好きだが危険が多すぎるから
島で待ってる女房と
子供らと
毎日 海を見て暮らす

あつい日盛りもすぎ
海の風 ややつよくなり
クレーンの音がきこえない

老人のわしは
大勢の子供たち孫たちに囲まれて
いつもの物語を聞かせてやるのだ
おじいさんの得意の話を
若い頃の

わしの冒険
わしの恋



自由詩 石炭船の船長の話 Copyright 狸亭 2003-10-03 05:41:33
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