夏嶋 真子


粋世
界の君
が笑う9ヶ
月前にこの
夢ははじまっ
た、はずの夢
*
はじまったもの達
のはじまらなかった
”名前”をひとつずつ
乾いた舌先で声にうつし
て消し去る作業を永遠と繰
り返す、繰り返した、はずの夢
*
くりかえす、くりかえした、かごめ
かごめ、 ”うしろのしょうめん”で
わらう君のうしろで微笑する母親の白い
小指の赤い糸を巻き取って、”かごのなか
のとりの”へその緒へと結びつけた君が、”い
ついつでやる”と唄えば鳥は卵を不在に孵してし
まったから無垢なる胎児を産み落としその鮮血の邪
悪さが確かにわたしでありわたしであった、はずの夢
*
そのわたしが本当にわたしなのか、わたしは確かにわたしなのか
を問うた鏡は正八角形の光を反射し、歪な三角形をしたわたし自身が
満月へと近づいて、無限に増殖する角は、無限に円をまねていくので胸の
高さへすいこむと霧散したはずの正八角形がレンズ越しに像を結びそれはほ
とんど円であるのだが決して円にはなれないこと、つまりわたしは確かなわたし
であり、ないことをうつした鏡が階段状の夢の途方の彼方で割れる、割れたはずの夢
*
割れた鏡の破片で紅玉をうすくうすく剥けば、林檎の白い花びらが咲いては散り咲いては散
り雪を降らせて母の、わたしの、誰かの亡骸をうずもれさせて消しさり消えさった、はずの夢
*
純粋世界の君が笑う9ヶ月前にこの夢ははじまり、壊れてははじまり、壊れ続けてははじまり続ける、




はずの夢









自由詩Copyright 夏嶋 真子 2009-10-12 13:02:29
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