Mtume Venus
たりぽん(大理 奔)

影に追われながら月を追います
切り絵のような林の向こう
夜空の手鏡に手をのばし
まぶしさの向こうに空蝉をさがすと
指先にしがみつき
掴み取るとカサカサと砕ける
乾いた血のような残照の地平で
野良がノラのまま薄汚れて
鳴いていて
けして白鷺にはなれないから
そらはどこまでも
遠いとおいままなのです

 渡り鳥が縫っていく
 夜が生まれる狭間に
 住んでいるのは金星です

  誰も連れて行ってはくれません
  切符も売ってはいませんでした
  最終の気動車が甲高く鳴いて
  短い曲率を右に曲がっていきます
  影を追うようにして
  月に背を向ける逃亡者のように
  ガタゴトとふるえていくのです
  震えて


やあやあ眠っていたようです
生まれるそらは
いつも血のような色ですね
私の枯れてしまった腕の先で
透明な羽を乾かしながら
使者がびぃと短く鳴いて
わずかな長さの朝に飛び立ちます

ぼんやりとした狭間で
金星をくぐり抜けて
むしあつい朝に生まれるのです
こんなに息苦しい
眠れない朝にも
生きることを
あきらめたりしないのです




自由詩 Mtume Venus Copyright たりぽん(大理 奔) 2009-09-07 22:30:33
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