灯りのつらなり
岡部淳太郎

遠くから見ると
家々の灯りが山裾に
へばりつくように
つらなっているのが見える

あれらの灯りは私ひとりの
いのちよりも長く生きるだろう
ひとりが斃れふたりが斃れ
世代の交代があったとしても
夜になれば変らずにともされ
次の時を過ごしてゆくだろう

遠くから見ると
山裾に浮かぶ灯りのつらなりが
夜の暗さの中で高低が喪失して
空に浮かぶ星のように見える

あれらの灯りの息が
永らえてゆく時間の上で
ひとりまたひとりとその明るさの中へと
入っては出てゆく物語が
いくつもあっただろう
それらの刻まれた時の
ひとつひとつをのみこみ
また引きのばしながら
灯りは伝えるものを継いでゆくだろう

遠くから見つめる
見晴らしのよい眺め
けれども夜であるゆえに暗く
そのためにぼんやりと明るく

あれらの灯りは人ひとりの
いのちよりも長く生きるだろう
分断された、人ひとり。
ここに動かずに遠い灯りを見つめる私は
自分が生きのびて在ることに
ようやく気づく



(二〇〇九年六月)


自由詩 灯りのつらなり Copyright 岡部淳太郎 2009-08-28 12:56:04
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