そいつは海じゃない
角田寿星


あつくて
あおくてあかくて
夕立ちが来るのをひと月半くらいまってた
あまくてあざやかで
あやふやであさはかで
あきっぽくてあきらめが早くて
工事現場にはどでかい紅白の
固定クレーンがどんと設置されてて
太い軸索が空をくっきり切り取って補色じゃないけど
やけにきれいで

気をつけろ
そいつは海じゃない

ゆうやけだったらクレーンがそらにとけて
もっともっときれいかもしれないと
ふえのれんしゅうしながらおもいました
けれどすっかりわすれて
したむいて10えんだまひろって
うたうたいながらかえりました

ひろい広場を支配する夏の騒擾の音楽だ
笑いさんざめく鳩の群れだ
ぼくはちがう ほら気付いてほしい
翼の尖端の色あいがグラデーションで
ちょっと痙攣的だろ
だからぼくは胸まで浸かって葬式する
においに敏感な日本人は
枯れてしまった花の残骸を放っとかないから

気をつけろ
そいつは海じゃないかもしれない

だいたい夕焼けなんてほんとに存在すんのか
あかあかと染まるてめえの面影だと?
じょーだんは顔だけにしてくんねーかなあ
いつも弱っちくウスぼんやりしてくばっかで
あれじゃまるで少しずつ死んでくみてえだ
なになに 夕焼けこそがあれは原初の死で
所在なげな恣意的先入観のいわばわれわれは
貸衣裳にホンローチートイのハタハッハで
A子の芋洗いと冷えピタな坊主めくりの
ハカマで屁をひるアスパラバレンシアだ?
いいかお前 ちょっとそこ座れ
…このバカが ああ
永遠のヘッドロックでもかましてやりてえよ

とりあえず
そいつは気をつけたほうがいいとおもう

もすこしだけ歩こうか
ズボンの尻はゼツボー的に破けっちまって
ぼくの人生こっから夜なのかな なんて
つぶやいたりして
そんなにツラくないけど
そんなに脚もいたくないけど
適当なとこあちこちさすって
歯グキむき出して
もう少しだけ

なんとなく
て言ったら
君はおこるかな


自由詩 そいつは海じゃない Copyright 角田寿星 2004-09-08 22:28:56
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