『光蘚〜ヒカリゴケ』
Leaf


骨身惜しまず、働いたあの頃を振り返る日々
―――そんな気色ばむ日常に嘯く日々はもう老いた

連れ添いふたつの撓み軋む感情を
――――諌めるように
律動を産み落とす篝火を手に
――――掲げるように
その炎心に宥められ慰められながら
赴くままに往き進んだ先の葡萄窟峡の入り口

―――背に陽の光受け
碧雲の洞窟に潜む
隠匿の光彩が道標となり―――
迷謬めいびゅうする事勿れと
偏に導かれ
葉脈の囁きに耳を傾ける―――

 寒かろな
 寒かろね

―――しんしん、しんしん、の伝承

錆びゆく獰猛と
しめやかなる湿の沈着
深々と歩むこの背この足
伝わる霧雨のビブラート〜〜〜鬱蒼と連なる光蘚の抱擁

 ぬくいな
 ぬくいね

―――ほろほろ、ほろほろ、の伝導

何処かしこ
彼方此方至るところに鎮座する
ちいさなヒカリゴケの精霊が
放射と反射の格子を合間縫い
我我を囲おうとする

森浴に塗れる鮮烈なる欲動は
―――――いつしか滅ぶ肉体の土への回帰

天から滴り落ちる澄んだ雫が瞼を掠める
―――――その一滴一滴に込められた想い

 疲れたろ
 疲れたな

―――ぽつ、ぽつ、の伝心

細く萎みゆく洞窟の先は霞みて
互いの皺枯れた手を握り締め
一歩一歩円みを増して
確実に歩んでいく


ふたつの丸い背を優しく包む
ヒカリゴケが
ふたりの覚束ない足元を
いつまでも
いつまでも
照らしていた


自由詩 『光蘚〜ヒカリゴケ』 Copyright Leaf 2009-07-31 20:29:28
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