野球少年のうた
服部 剛
歩道をのんびり歩く
背後から
チェーンの廻る音がして
端に避けた僕の傍らを
SAKAMOTO
6
というジャイアンツのTシャツを着て
後ろ髪の少し長い
少年が自転車で追い抜いていった
先日僕は、出勤途中のコンビニで
「坂本、サヨナラホームラン・・・!」
のスポーツ新聞に
思わず、足を止めていた
ヒーローなんぞに
なれない僕の胸に
今も時折蘇る
野球少年だったあの頃
ベンチから
グランドに立つ仲間等に
大声で叫んだ
あの日の決勝戦
いつのまにか
立ち止まっていた
歩道の
彼方
(
かなた
)
の
陽炎
(
かげろう
)
へ
遠のいてゆく
SAKAMOTO
6
自転車に乗った少年の
風に
靡
(
なび
)
く後ろ髪に
目を細めながら
僕はふたたび
小さい一歩を、踏みしめる
信号を曲がると
誰一人いない道を
風の姿が、吹き抜けた
( あの日の野球少年達は、
皆それぞれ大人になった・・・ )
僕の背負うリュックには
無名の野球選手を描いた物語
「こころえ」という本が
いつもずしりと、入っている
俯いた顔を上げれば
緑の山々と夏空へ
繋がっている
長い長い、坂道
あの懐かしい校庭の
少年達の歓声と
金属バットの打球音を
夏空に響かせながら
僕は小さい一歩を、踏みしめる
汗水の頬に
滴
(
したた
)
る坂道で
自らの歩調こそを
唯
(
ただ
)
一つの、うたとして
自由詩
野球少年のうた
Copyright
服部 剛
2009-07-15 18:21:26
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