初夏の眩暈に
たりぽん(大理 奔)

つばめの描いた空の季節を
きりりとつま弾いた爪痕が
胸の奥で道程をたどってゆきます
命あるものの、ほのかな光が
湿った夏草の先で揺られています

  防波堤で砕ける波が
  どれほどのうねりからやってきたのか
  渡る鳥たちは秘密を知っているでしょうか
  いま流れる、涙がうち寄せる頬の

いつも夜は深い海でした
息苦しく胸に満ちるものは
波と同じ味がするのです
星の届かない時間が流れ
ふり仰ぐと漁り火の船底
ほら、最終便が空港に
舞い降りる姿のようでしょう

  浜辺に残される波痕
  布擦れの爪痕のように
  あさく、浅く傷付けていくのです
  軽い痛みの記憶だけを
  いつまでも、おもいだせるように

  漂ってみたいのです
  たくさんのうねりが生まれ
  たどり着く境界を

きっと、越えていくのでしょう
行方も知らないまま輪郭をたどり
愛する人のかたちや
息苦しく、透明な天井をかきむしり
忘れないように
浅く、傷付けながら



自由詩 初夏の眩暈に Copyright たりぽん(大理 奔) 2009-07-12 23:57:39
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