僕の中に

僕の中に居た太鼓持ちが
えへらえへらとやってきて
やあやあ こんちは ごきげんどうです?
なんて機嫌取りにやってきたものだから
むすっとした顔で
追い払ってやったら
なんです えらい ごきげんななめですねえ?
なんて やっぱりえへらえへらと笑って
あのねえ 君に僕の悲しいことや苦しいことなんて
わかるのかい?
なんて 少しばかり教えてやっても
ええ ええ わかりますともわかりますとも
なんて ちっともわかってないくせに
適当にあいずちばかり打って
寝てしまった
たとえばさあ なんて話そうとしても
寝てるものだから仕方がない
結局 僕は 寝ているこいつに
適当にあることないことをしゃべって
はぐらかす
 南極にペンギンの夫婦が居たんだ
 そろって 両親に反対されてたんだけれど
 周囲の反対を押し切り逃避行さ
 今じゃ 彼ら 北極に住んでる
はっと 気が付き 太鼓持ちが目を覚ます
そ それでそのペンギンの夫婦はどうなったんですかい?
僕は 溜息つきながら続ける
 その頃 地球温暖化エコエコウィルスが蔓延しはじめてだね
 みんなペットボトルからできる繊維で服を作り始めたんだ
 だけど ペットボトルから繊維を取り出して服を作るのは
 結構めんどくさいから ほぼペットボトルの状態から
 服を作る人々が現れたんだ
 固くて透明で光るプラスチックみたいなパキパキの服でさ
 色んなおしゃれ雑誌が特集を組んで流行したのさ
 煽り文句は
 『今までの服は全部捨てちゃおう! レッツパキパキ!』とか
 『憧れのショップの店員さんのおススメはこのパキパキ感!』とか
 『(体型別)今、買い足すならこのパキパキ!』とか
 『真似しちゃおう憧れの高級パキパキブランド!』とか
 なんだかんだ言ってそれはそれは
 老いも若きもみんなおしゃれに着こなしたんだ

太鼓持ちが僕に言った
それでみんなのかなしいことはすこしははれましたかいのう?
 いや
 彼らはきっと気づくのさ
 どんなに軽くて透明でも
 固い殻に覆われていたら
 抱きしめあうことすらできないって
 

太鼓持ちはふわりと消えた



太鼓持ちがいなくなった後
僕は もうしばらく続けた

 ある朝 目覚めたら 世界が一変していたのさ
 ヨットで世界一周したら大声で叫んでやる
 『レジ袋は もう要りません!』
 きっとレジ袋を作ってる会社が泣くだろう
 ある朝 目覚めたら 世界が一変していたのさ
 澄みきった青空のどこまでも向こうへと叫んだよ
 『本当の戦いはまだまだこれからだ!』
 企業戦士たちが手を挙げた
 ちいさな小瓶にちいさな手紙を詰める
 『走り続けていますよ!』
 選挙公約に掲げるのさ
 『一分一秒でも多くときめいていたいの!』
 沈みきった夜に月を見ながら思うのさ
 『あ、今、カレー食べたい』
 悔しくて悔しくてこれでもかと思うほど悔しくて地面を叩きつけたんだ
 『青春に終わりがないなんて!』
 しばしば老舗旅館へ行ってふと思うのさ
 『昔からあるんだなあ』
 空を漂い続ける風船に限りなく近い存在
 そうそれは
 『台風の日のレジ袋』
 魚の目にも涙



果てしなく続く僕の回遊先には
そう あの太鼓持ちが座っていた
どうです そろそろごきぶんは?

 いいねえ
 有言実行 日はまた昇るさ



ペンギンの夫婦が 北極の空へと飛び立った
 




自由詩 僕の中に Copyright  2009-05-15 23:15:59
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