抽象物
岡部淳太郎

――にんげんは
  抽象する動物なんだな
  (北村太郎「悪の花 2」)



鳥の目醒めがあって
それから少し遅れて
人間の目醒めがあって
それからだいぶ遅れて
私の目醒めがある

遅刻するのにはもう
ずいぶんと慣れた
今朝の時計の鳴り方も
私には物足りなかったようだ
だがこうも毎日
毎時毎分毎秒
遅刻ばかりしていると
そのうち私専用の
うるう年が出来上がるのではあるまいか

鳥の目醒めはいつも早いが
その早さを寒さにふるえながら
素描するのは
いつも人間の役割だ
私ほどではないが
人間もそう早く目醒められるわけではない
自らの遅さを体内に
隠し持って
道行く人にあいさつをする
そのいつもの言葉としぐさ
そんな決まりきったものから
人間は確かなものをつくろうとする

私の遅刻は私の中では
すでに定説だ
いまさら道に出て
気ままに歩いてみたところで
すでに行き交う人もない
だからあいさつもしない

こうして自然のものと
人間や私の中に生じた
人工的なものとを
較べながら
私もまた何かをつくろうとしてみる
それは決して確かなものにはなりえない
遅れてやって来た者ゆえの
抽象物だ

だが人間も
そうそう確かなものを
つくれはしないのだ



(二〇〇九年三月)


自由詩 抽象物 Copyright 岡部淳太郎 2009-04-21 23:33:53
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