名辞についての対話
Giton

A:およそ名前というものには実体がない。
 ぼくらの有限の時間の中で、やって来るものに対し投げつけられるのは、小間切れの仮の名であって、真実の名前は、去ったあとで、はじめて附けられる。だから、いつも名前が附けられた時には、実体は過ぎ去っており、存在しない。
 名前は、実体をつかみとることができない。だから、名は虚妄だという人もある。しかし、ぼくらには名前以外に何があるだろう?名前の集積が森羅万象であり、ぼくらだ。
 実体は存在しない。それは、いつも過ぎ去っており、消えている。
 名のみが存在する。

P:実体は存在する。名付けを拒む実体が存在する。
 春芽吹く木の芽が、毎年同じでなくとも、同じ形相に貫かれて展び開くのはなぜか?獣であろうと人であろうと、熱い出会いによって同じ行動に導かれるのはなぜか?名付けを拒む実体が存在する。私は名付けを拒否する。私とあなたとの関わりは、名付けを拒む。しかし、実体は存在する。
 過ぎ去ることもなく、生まれ出ることもないただ一つの実体が存在する。ただ一つは、いつも現前し、うつろわず、時間をもたない。
 すべての名は虚妄だ。実体のみが存在する。

A:あなたは、実体のみが存在する、名前はすべて虚妄だという。
 では、あなたの語る言葉は名前ではないのか?あなたは、妄語をつぶやいているのか?

P:あなたは、名のみが存在する、実体は虚妄だと決めつける。もしそうならば、あなたの語りこそ、実体とは何の関わりもない妄語であることになる。
 あなたは、名の指す実体を性急に求め、その結果、名のみ存在して世界は存在しないなどと断じる。あなたは、実体を指し示す語りには無縁なのかもしれない。
 
☆哲学上の議論とは無関係であり、哲学上の術語の理解を踏まえたものでもありません。


散文(批評随筆小説等) 名辞についての対話 Copyright Giton 2009-02-26 21:20:34
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