一本の縄となり
川口 掌



夕暮れの町外れの道を散歩する一組の老夫婦
妻は杖突く夫の手を取り転ばぬように支える
寒風の吹く中風邪引かぬよう二人丸々着込み
一歩また一歩と歩を進める

道すがら隣家の庭を眺め南天の実を
梅の蕾のほつれを見つめ語りあう
川端に差し掛かり川面を覗き込み何かを指差す
道端に丸まる猫を見つけ話しかける

変わらぬ毎日の変わらぬ何かを見つけ
また変わってしまった何かを見つけ
二人等しくその顔に一本
また一本と皺を刻み込む


時は流れ続けいつしかこの夫婦を見掛け無く成る日も必ずやって来る
背負った物の重さは背負っている者にしか判らない
が日々の重さの違いを
確かめ楽しむそうやって歩いて行きなさい
聞こえて来た老夫婦の笑い声は私の心に静かに語りかける


遠い昔に綯われた二本の糸は
解ける事も無く今も 硬く硬くしまり
このままずっと ほどける事を拒否している


自由詩 一本の縄となり Copyright 川口 掌 2009-02-18 12:56:24
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