冬の静脈
岡部淳太郎

ながれていく
  (しずかに)
その潜行する鼓動を
ききわけて
よりわけて
乾く冬のために
水を落とすものとなる
寒い病のために
感情を輸血し
あるいはこのこころの
ものがたりを出入りさせ
きのうまでとは違う
歌をきく
ながれていく
  (しずかに)
その見つめられることのない鼓動の
中に 音もなく
落とされたものたち
乾く冬の青白さのために
人知れず
受け つがれてきた
かたちのないものに
寒いかたちを与える
それだけのものとなる
ながれていく
  (しずかに)
あくまでもその音量のままで
生きのびてきた鼓動たち
それらが落としてきたものでさえも
ききわけて
よりわけて
いかなければ
冬のこころは
  (とてもしずかに)
未知のままで
ひらかれている
みとめられずに
ただそれだけのものとして在る
おおきなものではなく
ちいさなままで
ながれていく
ただそれだけで



(二〇〇八年二月)


自由詩 冬の静脈 Copyright 岡部淳太郎 2009-02-16 20:18:13
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