深夜の電話
いねむり猫

もしもし、

ぼくは 周囲の人たちの期待に応えて構成された 架空の存在です
だから あまり難しいことを話しかけないでください

ぼくは 食事と排泄と睡眠と性交にしか興味がありません
だから ぼくに社会貢献活動を期待するのはやめてください

ぼくは とりあえず社会の中で人に迷惑をかけないように生きています
やっと 人から嫌われない程度に 空気が読めるようになりました

でも それは一度か二度失敗した場面でのことで 
初めて出会うような出来事には うまく対応できません


もしもし、

私は 人の気持ちをひきつける絶対の自信があります
だから トラブルがあれば何でも相談してください

私は いつも社会の潤滑油として 意義のある行動に献身的です
だから 私はどんな会合にも出かけて行きます

私は 人の中でしか生きていけません
だから 社会から離れた私生活では ただ死んだように眠るだけです

私は きわめて社会的な人間なんです
社会の中で 自分の価値を確かめ続けることが重要なのです
だから 私を一人にしないでください 家庭に閉じ込めないでください

もしもし、
おれは 自分の中に満ちてきた真実を 形を整えて言葉にする
その中には 周囲の人々が耳を塞ぎ 
世の中の流れを止めてしまうような真実も 含まれている
だから おれの口に蓋をしろ
あるいは おれを相手にするな


もしもし、もしもし

ところで 深夜にかかってきた電話の向こうで 
むせび泣いている男は いったいだれですか



自由詩 深夜の電話 Copyright いねむり猫 2009-01-18 20:51:24
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