日曜は飯島愛と足尾銅山に行こう
猫道

破れた くびたびれた足袋 繕いつつ また度々旅に出る足
寂れた ラブレター 届かないほど 奥の細道の奥の奥へ

遠くへ オーボエ 大声 遠吠え
雪山に当たって吹き下ろすから
シャッター閉めて黙っとこう シャッター切って走って逃げよう

淋しいから叫ぶしかないけど 強く叫ぶほど風は冷たくなり
淋しいがデフレを起こしちゃう 淋しいに何も感じなくなる
低温火傷みたいになったら 飯島愛と遊ぶしかない
ドライアイに目薬をさすように ドライアイスにピックを刺すように
飯島愛に中指を挿す 淋しくなくなるわけがない



『日曜は飯島愛と足尾銅山に行こう』



東武浅草駅7時40分発、特急に揺られて2時間。
相老でわたらせ渓谷鉄道に乗り換える。
ディーゼル列車の粉塵の匂いにちょっと嫌な顔をしながら、
飯島さんの身の上話を聴きつつ、
徐々に空気が冴えて空が青々としてくるのを感じる。

「ギルガメッシュナイトは観てなかったし、
 好きなAV女優だって古いのでも光月夜也だから、
 あんまりさ、貴女のこと知らないんだけど、
 警察に行って淋しいから話を聞いて欲しいっていう感覚は、
 覚せい剤にも抗欝剤にも世話になってないけどよくわかるよ。」と伝えると、

「これだけは金で買えないから困る」って飯島さんは答えた。



列車はやがて終点 間藤駅へ着く。
足尾銅山精錬所跡まで歩いて20分、ここから先は廃線を歩く。

ここが鉱山の街として賑わっていた時期、
線路はその先の精錬所に続いていて、
奥からカネを運び、奥へカネをもらいにみんな集まった。
飯島さんがホステスや愛人をしながら身体を売っていた時期、
奥からカネを運び、奥へカネをもらいにみんな集まった。

そんな考えが頭をよぎると、
なんだか飯島さんの顔をまともに見れなくなってしまった。



廃線はやがて途切れて、鉱山労働者と家族が住んでいた長屋へ出る。
何故かどの屋根も青く塗られて、空と一緒で、
鉄錆や禿山の赤と精一杯メンチ切って向き合う。
そのあたりから一言も喋らなくなった飯島さんが、
どんどん青くなっていくようにも見えたが、よく覚えていない。



いつしか辿り着いたのは、集落そのものが廃屋の集まりと化した一角で、
静まり返ったそこにびゅうびゅうと寒風だけが通り過ぎる。
110年も前の鉱毒は未だ残り、
山肌には土壌改良と植林の印に無数の杭が屹立する。



「俺、何で淋しいとか言いながら
 こんなとこ来ちゃったんだろう。」



ベストセラー 狙う 頼りない 芽の数々が からっ風に

さらされて 団地みたいに 生えているのが 怖くって

墓場と マンションと 森林と 集合写真が 似ているのが

怖くって 欠席した飯島さんだけが 列からはみ出して

1月の青々とした空に 消えていくのは 止められなくて

だから 弔いのつもりで 一緒に乗らなかった 銀河鉄道の 代わりに

栃木に4000円かけて電車で行ったのかもしれない



110年間  ベストセラー  生活  飯島愛

これだけは金で買えないから困る



破れた くびたびれた足袋 繕いつつ また度々旅に出る足
寂れた ラブレター 届かないほど 奥の細道の奥の奥へ

遠くへ オーボエ 大声 遠吠え
雪山に当たって吹き下ろすから
シャッター閉めて黙っとこう シャッター切って走って逃げよう

淋しいから叫ぶしかないけど 強く叫ぶほど風は冷たくなり
淋しいがデフレを起こしちゃう 淋しいに何も感じなくなる
低温火傷みたいになったら 飯島愛と遊ぶしかない
ドライアイに目薬をさすように ドライアイスにピックを刺すように
飯島愛に中指を挿す! 淋しくなくなるわけがねえ!

淋しくなくなるわけがねえ!
淋しくなくなるわけがねえ!
淋しくなくなるわけがねええええええええええええええええええええ!


自由詩 日曜は飯島愛と足尾銅山に行こう Copyright 猫道 2009-01-15 00:13:20
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