ハケン村のキケンな一夜
ネット詩の悪魔

一日目
自己紹介
古い名刺はいりません
受け取る時は両手を添えて
新しい名刺は
デザインもきっと豊富でしょう

響き渡る筆音
空調をも圧倒する
乱れ飛ぶ修正液
ピンポイント
年度末の道路のように
ひたすら埋め戻し

スキルシートは、天井まで書き尽くす
自己分析は冷静に
自己批判は技術の継承
適性とはつまり、ポジティブな消去法

ひたすら前を向き
闘志を燃焼させ
地獄の沙汰も金次第
生き馬の耳はそぎ落とせ

君の秘密を知りたい
欅の下に埋めた秘密を
君の真実を知りたい
生まれたままのホットな姿を

必要なのは繰り返すこと
上り下り
出ては入り
テスト
摩耗
耐久
評価

「先生。銀縁眼鏡をかけた豚が、サルサを踊っているのが見えます」
「それこそが、原因だ」
「豚ですか?それともサルサの方?」

検索を繰り返し
抽出をやり直し
妄想をふくらませ
誇大広告を書き上げる
才能がなければ
詩人になどならないで済む

一三一日目
この広いフロアで
まだ神様を見たことがない

案件はAランク
マッチングは99%
決断の時
銀縁眼鏡はコンタクト・レンズに変えろ
ついでに目を二重にして(目は二重にはできません)
スカートの裾を5センチだけ短くしろ

決断の時
やはり繰り返される槌音
何が気に入らないといって
タイミングがあと0.1秒早ければ
あるいは左手の薬指の角度が
あと4度だけ下向きならば

我々は前進する
飛翔する
右肩上がりで
立ち止まるのは
すなわち死

再計算が行われ
結果は結局変わらなくとも
ひたすら繰り返される
いつでも悲劇は

大切なのは信頼だ
私は信じる
彼らの言葉を
代わりはいくらでもいる
いくらでもいるんだ

初めてそのセリフを聞いたのが
果たしていつのことだったのか
正確に思い出せる者は
もうここにはいない

一体いつになったら
この風邪が治るのか
どこに行けば
最愛の女に出会えるのか

コスト管理は誰がしているのだ?
この行列の先には、何があるのだ?
彼らはサクラか?
どうやって見分ければいいのだ?

この際だからくじ引きで決めてしまえばいい
そうすればもう我々は必要ない
行き着く先は
また新たなる行列

頭上に聳える
ハードルの列
飛び越えるには高すぎる
そんな奇特な人間が
この世に何人いるのだろう

かくして
ハケン村の住民たちは
キケンな一夜を迎える
そして朝がきて
また新しい一日が始まるのだ


自由詩 ハケン村のキケンな一夜 Copyright ネット詩の悪魔 2009-01-13 01:02:31
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