ネバーランド
つぐこ

 僕は、君の名前を思い出すことができない。
だから、名前を勝手につけて話をしようと思う、君の名前はノア。
美しい子供だったということは覚えている、ピタゴラスの定理のような美しさを持つ子供だった、
なぜ、過去形にしたかというと、
ノアはもう、子供ではないから。

ノアは、歪んだ正義を覚えた。
美しい子供の面影なんて、微塵もなかった、
大人になるってことは、こういうことさ、と、
ピーターパンは笑った。

いつか、ノアにプレゼントしたぬいぐるみを覚えているかい。
そう、あのクリーム色の熊のぬいぐるみ、
ノアは笑顔一つ見せずに、そのぬいぐるみに顔を埋めていた、
ノアの最大限の嬉しさを表す表現だって、僕は分かっているよ。

ネバーランドを抜け出した君は、世界に嫌気がさした。
正義と悪の間でもがいていた、
誰にも助けを求めず、溺れていった、
そして、世界を汚した。

ノア、君は何がほしかったの?
多分、君の事だから、世の中にないものなんだろうな、
ノア、君は今、何を欲しているの?

果てしなく続く陸地が広がっている。
ここがネバーランドだったら、笑っちまう、
これを君が見たら、そんなことを言っているだろうね、
でも、ここはネバーランドなんだって、ピーターパンが言ってた。

ほら、何もないよ。
空には雲ひとつないよ、
既成されたものなんて何一つないよ、
確かに、ここはネバーランドだ。

もう一度、僕は、君の名前を思い出そうと試みたけど、思い出せない。
だから、名前を勝手につけて話をしようと思う、君の名前はノア、
美しい子供だったということは覚えている、ピタゴラスの定理のような美しさを持つ子供だった、
なぜ、過去形にしたかというと、
ノアはもう、子供ではないから。



自由詩  ネバーランド Copyright つぐこ 2008-09-23 03:02:20
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