猫のひたい撫でるたま子



なかったことにしてしまおう、すべて

昨日のことも、あしたの顔も

忘れてしまえばなかったことと同じ

忘れてしまえば自由になる

はじめに戻って、無垢なつもりで

なくなってしまったなら、泣きもしない

鈍感な壁が厚くなっていく

なにが刺さっても気づかずいられる

なんて便利な私の体

なんにも見えない私の目

目に膜が張っている

すべてが見えてくる、世界がクリアーになる

やさしく言葉をかけないことの美しさと、感じずに生きることを選んだ気持ちが重なる

先の長いフォークが、柔らかな私の頭を刺してゆく、ゆっくりと確実に

音楽がどこかから響いてくる

いつ聴いた音だろう

思い出せないけど、きっと私が大切にしていたリズムだ


リズムは心地よく、笑ってしまう

笑って、笑わせて

もう心が記憶してない感情が呼び起こされる

音楽を止めてください


プライドというつまんないものがあって、
そんなものはいらない

起点はどこから?

大切なものがあるからなんにも決められないんだよ

そう耳元でささやいた

走って逃げてゆく、風が巻き起こる

その風の足跡から小さくくるくると回って、

枯葉を、煙草の吸殻を、ベンチを、犬を、あなたを

巻き込んだものが遠くに高く放られた

取り残された私はなにもない宙をみつめる

あなたが残したつめ跡を感じる

思い出しては笑えない

想像しては忘れてしまう

あの趣味の悪い赤と、きもちの悪いあなたの優しさ

頭に描く色がぼやけて、滲んで、とけてゆく

その雫がたれて、小瓶に溜まる

遠く誰も知らない町ではその目薬が重宝していると、あなたはいった








自由詩 Copyright 猫のひたい撫でるたま子 2008-09-07 11:12:49
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