雨の降る寂しい夜
飯沼ふるい

雨の降る寂しい夜は
樹海に似た空気を宿している
 
車の黄色いヘッドライトが雨に溶け出して
道端の排水溝に流れていくさまに寒気を覚えながら
傘もささずに一人歩いていた
 
煙のように揺らめく遠くの景色が
行き先という行き先を暗くさせるのと
僕がわざとらしく遅く歩き
ひた向きに感傷に逃げようとしたのには
少なからず関係があって
 
それはずぶ濡れてしまった水溜まりの樹海と
そこに横たわる自殺の腐乱死体の関係にも似ている
 
なにが悲しくて
指先の温もりを無くしてまで
歩き続けるのだろうか
 
いったい
どれほどの雨粒たちに
したたかに撃ち抜かれていれば
僕の魂は二つの眼球と分離できるのだろうか
 
このまま
すれ違うヘッドライトのように
僕も溶けてしまいたい
溶けてしまいたい
 
おぞましい夜空が
シンバルの鳴り続けるような水溜まりの中に
吸い込まれていって
その深海は呆気なく車の重みで砕け散る
 
散乱した水の星屑
ギラギラのネオンに抱かれて死ねばいい
 
指先の鋭い感覚
唇に流れる夜の尿
 
このまま
すれ違うヘッドライトのように
僕も溶けてしまいたい
溶けてしまいたい


自由詩 雨の降る寂しい夜 Copyright 飯沼ふるい 2008-08-30 17:59:40
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