八月のフラグメント
しろう

潮騒が耳の奥でいつまでも鳴りやまない八月も
半ばを過ぎて
レース糸を通したように陽光が柔らかくなる
ヒグラシもそろそろ日の目を見たくなるだろう


「おまえを必ず守る」なんて言葉を
いともあっさりと口にできた頃には
日の光に立ち向かうような強さについて
思い悩む必要はなかったのだろう

「あたしのソファになって」なんて言葉を
飼い猫を見る目で言った女の在りようが
一冬越えてようやく理解できた頃
僕は座椅子くらいにはなれる気がした

日が傾けばこの部屋にも
茜色の光が射し込み始める
日陰で寝ころんでのびていた
野良猫もあくびをしてみせる

セミの声も人の声も
わりとあっけらかんと死ぬから
おちゃらけたナンセンスで
人生を浪費してもいいだろう

マーマレードの光を浴びて
散策するのもいいじゃないか
何の意味さえ見出さなくても
それが幸せのクォークなのだよ


潮騒が耳の奥でいつまでも鳴りやまない八月も
波打ち際の足跡のように通り過ぎる

日向に置かれたソファには
まだまだ到底及ばずながら






自由詩 八月のフラグメント Copyright しろう 2008-08-21 17:46:59
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