死なば盆前
板谷みきょう

お前、その歳で病院辞めて
老人ホームで何してるのさ。

歳を取ると若い時と違って
目も、歯も、膝も、腰も…
病気になることも、仕方ないことなんだよ。

体がどんどん悪くなるのは、当たり前さ。

でもねぇ。
一つだけ歳を取って良くなるモノがある。

それは、心。

体験やら経験やら、積み重ねた分だけ
若い時に、気付けなかったことが
解ってくるもんなんだわ。

それでも、気を付けていないと
心まで悪くなってしまうんだから

お前も、気ぃ付けなさいよ。

施設は、老人ばっかりなんだべさぁ。
お爺ちゃんは、自分の父さん
お婆ちゃんは、私だと思って
ちゃんと働きなさいよ。

死なば盆前って言うじゃないか?
どうせ死ぬなら
また盆に帰って来られる盆前が良いわ。

どうしてだかねぇ。
足が浮腫んで仕方ないんだよ。

意識を無くし
ドクターヘリで運ばれた母が
体中を管に繋がれながら
意識を取り戻してから言った。

母さん。

ボクは、堅気の仕事が出来ないまんま
満足に食えない、唄うたいのままだよ。

それにもう、盆の最中なんだよ。


自由詩 死なば盆前 Copyright 板谷みきょう 2008-08-14 23:38:12
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