セミダブルベッド
木屋 亞万

僕は駄目な男です
僕は今日も眠ります
夢は想像を消さないと
影すら見せないので
舵は枕任せです

枕は北風を浴びて
雪で遊ぶことに
決めたようです
一面に雪が積もります
冷気が沸き上がりますが
少し温かくもあります
距離を置くと
雪は温もりを持って
包んでくれるようです
近付き過ぎると
不快そうに溶けて
愚痴をこぼすように
雪に穴をつくります

穴から一匹の蝉が
温かさを間違えて
はい出てきました
近くに木がなかったので
左手を登ってきました
肘の突起で立ち止まり
皮を脱ぎ始めました
蝉の羽は緑がかった白
目は雪に濡れていて
少し温かそうでした

太陽の光がきつくなり
雪の照り返しが眩しく
眩暈に目を閉じたらば
蝉が鳴き始めました
声からはどの蝉か
判別できません
象徴的な産声が
左の肘から
頭に響きます

目を開けると朝でした
現実を始めるための朝
左肘には蝉の抜け殻が
感触として残っています
両手を広げ伸びをして
枕に航海の礼を言います
僕は駄目な男です
僕は今日も生きています


自由詩 セミダブルベッド Copyright 木屋 亞万 2008-07-10 02:00:46
notebook Home 戻る  過去 未来