精霊たちが棲む夜には
りゅうのあくび

やみ夜を照らす
ランプの灯が
消えていっても
地球で最も
はかなくて孤独な色は
黒く静かな夜空の色なのだから
太陽が沈む
もう何も見えない
漆黒の夜にも
恋する人と
ふれあえるぬくもりが
あればいい
今しがた
眠りから覚めた
夜の精霊たちのように
手探りで
うっとりと
抱き合いながら


部屋を暗くして
しっとりとよりそいながら
瞬きするとき
誰も知らない
凛とした素顔が
そっとのぞいて
かぎりのない夜空は
もうえりもとが
はだけて胸の奥にまで
ひろがり始めている


吐息の音だけが聴こえて来て
灯かりは消え入りそうで
素肌はいつのまにか
媚薬のような
夜の薫りにだけ
包まれていて
目の覚めるような
記憶の途中で
もういちど瞬きする


部屋中は
もう恋の熱で焦げてしまった
黒の色をしていて
夜を想う力は
明かりのない
少しせまい
部屋いっぱいに
一つの優しい
曲線を描いていて
紅く燃えていたはずの
心臓の鼓動が
彩られる本当の色も
果てしもない夜空の中で
鮮やかに黒く染まっている


夜空の奥深く
愛の蜜ひとしずく
堕ちるとき
手と手は
連なった
鉄の鎖のように
にぎられては 
きしんでいる
つながれあっている
腕は暗やみの中へと
はがれ落ちるみたいにして
向かいあう身体は
返しては揺れながら
その刹那となって
一瞬は絶えまなく巡る


まなざしの奥と
恋する人の細い指先とは
ひとつながりになっていて
それぞれの裸はすみずみまで
確かめられ
夜の精霊の
黒くかたい羽根は
永遠のあいだに
真夜中の色をして
にぎりしめられる
手のひら
すらりとした
恋の翼をひろげて
どこまでも
はばたきをしている





自由詩 精霊たちが棲む夜には Copyright りゅうのあくび 2008-06-29 20:27:28
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