海鼠の味
佐々宝砂

リスカする少女は
美しい海鼠を生むだろうか

海は流産ばかりしていて
今夜も凪いでいる
荒れる波の記憶はもはや遠い彼方
リスカする少女の腕は今夜も乾く

悲しい歌を名づけるもの悲しい行為
べたべたと甘いきみの髪はカシスミルク
忘れてしまったのならきみは幸せだ
きみの幸せには
ひたすらに甘ったるい酒で乾杯しよう

海鼠はウラオモテのない生物で
ずるりでろり蠢くはだえには
ただバカ正直な欲望がぬめる

リスカする少女には
甘い血液で満たした洗面器をあげよう
あんたに期待はしない
同情はするけれどね

バカ正直な海鼠を酢で〆て
わたしはゆるり杯を干す
杯の中味は単なるエチルアルコール
酔えばいいさ
甘みも
うまみも
邪魔者に過ぎない
わたしを酔わせよ

あんたに
そんなことが可能とは思えないが
少なくとも
海鼠はわたしの舌を楽しませる
ほんの一瞬に過ぎないにしろ


自由詩 海鼠の味 Copyright 佐々宝砂 2008-06-19 02:28:07
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