夕張aika
大村 浩一

かつて国鉄全路線に乗った
作家の宮脇俊三さんはこう書いた
「何かと不満の多い人間は
一度夕張線に乗るとよいと思う
いくらかおとなしくなるに違いない」
文句のある奴は夕張へ来い
文句のある奴は夕張へ来い


文句のある奴は夕張へ来い
少しは頭も冷えるだろ
平和砿の跡の平和公園まで
とびどぐもたないできてください   ※1


文句のある奴は夕張へ来い
あらゆるものがここを通り過ぎていった
いまは緑の静かな谷あいに
一万人が暮す小さな町


小洒落たホテルとスキー場がお出迎え
けれどかつての本町はその2kmも先
年寄りにはきつい長い坂を登れば
団地ばかりが目立つ静かな町


鹿の谷の高級住宅街は夏草に埋もれ
黒ずんだ板で塞がれまるで炭住のようだ
ひとつの炭鉱も残ってはいないのに
正午を告げるサイレンが谷間に響き渡る


昔の夕張駅がいまの「石炭の歴史村」
博物館の模擬坑は空気が綺麗過ぎる
黒い粉塵もガスの噴出もなければ
坑夫たちの熱い汗も抗う息吹きも無い


大規模な機械化で切り抜けようとしたが
一度も目標を超せないまま事故で閉山
その時の最新の採炭機械が
デモ運転でやみくもに大きな音をたてる


併設の大きな遊園地は今は閉鎖中
おとぎの汽車さえも途中から廃線跡
施設を廻る観光バスは30分毎に来るけど
坂に苦しむ町の人を乗せる事はない


ほんとうに行きたかったのは錦沢のスイッチバック
そこに12万人の夕張のための遊園地があった
廃線跡のサイクリングロードはトンネルで通行禁止
高速道路が出来れば消される思い出


財政破綻のあとは市民会館も
小さな図書館も学校も緊縮財政で閉鎖
黄色いハンカチ振って文化の街と言いながら
通りにはまともな本屋の1軒も無い


東京からの携帯電話が不意に鳴り出すと
もう帰る処はどこにもないとあの娘は泣き出した
猛きものも ついには滅びぬ
ひとえに風の前の塵に同じ


セーコーマートのベンチのお婆さんは
何も言わずに坂を引き返していった
4が2になって1になって0になる
スクラップ&ビルドの最後を知っていたから


いまは私もどこかへの帰り道の途中
ただの通りすがりのサイトシーイング
自分の軽薄さに耐えよ、悲惨鑑賞団   ※2
見られる限りを見ておこう


Be Cool Your Head 春は幻
Be Cool Your Head 夏は終りだ
Be Cool Your Head 秋の枯れ葉よ
Be Cool Your Head 冬に備えよ


文句のある奴は夕張へ来い
少しは頭も冷えるだろ
平和砿の跡の平和公園まで
とびどぐもたないできてください
とびどぐもたないできてください


         ※1 宮沢賢治の童話『どんぐりと山猫』より
         ※2 山口泉の小説『悲惨鑑賞団』より

2007/9/26 初稿
2008/5/11 第3稿


自由詩 夕張aika Copyright 大村 浩一 2008-05-26 12:31:20
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