聖なる火
六九郎

彼は怒っている
子供の頃から怒っている
彼の父も怒っていた
彼の怒りは彼の父やそのまた父が灯し続けた小さな聖火である
彼はもはや何に怒っているのか分からない
彼はずっと怒り続けている

彼の怒りは自分自身に向けられる
彼の怒りは周囲の者達に向けられる
我とわが身と周りの者全て
彼の怒りで火傷が絶えない

彼の怒りには理由がある
彼は怒る理由を知らない
泣きながら怒り
笑いながら怒る
彼の怒りは古く
彼の怒りは新しい
怒りたいから怒り
怒りたくなくても怒る
彼は怒るために怒る
怒りながら目を覚まし
怒りながら眠りにつく
彼の怒りは収まらない
彼の怒りはいよいよ深い
彼の怒りは尽きることがない

彼は怒りによって動かされる
怒りによって生かされている
怒りこそが彼の源泉である
生きている限り彼は静かに怒り続けるだろう

彼は自分の声で目を覚ます
自分の笑い声で目を覚ます
何を笑っていたのか
彼はいつも思い出せない


自由詩 聖なる火 Copyright 六九郎 2008-05-19 19:39:36
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