深夜の連弾
狩心

夜が深まる、深まる
空が隠れる
るるるるるって聞こえる
るばっか言ってんじゃねぇよ
って聞こえる

るるるるる
ふふふふふ
女性が小さく笑う声が聞こえる
眠りに誘う
ううううう
苦しくなるぅ
布団が冷たい
何も居ない
お化けがべろべろバー
アテンションプリーズ?
何階になさいますか?
ピンポーン
お茶漬けが出来上がりました
ブッブー
その答えは間違えです
アテンションプリーズ?
軽い毛布が飛び立ちます、
床が抜け落ちます
ぼくは空中に浮いた新興宗教
ここは部屋ではありません
ここに座薬はありません
カツラのみ
販売しております
アテンションプリーズ?
ぼくはもう、デパートには行かない

  終

軽いステップ
鈴が鳴る音
機械樹の羽が降り立った音
ごろごろにゃーん
岩が猫を殺した
ぼくは憤怒する
橋が転落した音に
ぼくは憤怒する
一本の道が四次元に捩れ始めた事を
吸い込む
子供が溺死する、
ごろごろにゃーん
猫が子供を救おうとする
招き猫の振りして金をせがむ
君の背中の口にチャリンとコインを投入し
挿入し
二人涙の夜に転落死する
風景がまったく見えなくて
音がやけに神聖で
伸び切った髪の毛が
体中を飲み込む
セメントが割れる音
その中に子供が生まれる

  終

君の眉毛が草原で
スペーストラベル
インジケーター
削ぎ落とされた皮膚
火薬の匂い
あの日、焼肉屋で指を焼いた事実
誰かに強迫されて
体の一部を焼いた事実
目撃者の少年は
午前0時30分
女性の悲鳴を聞いたと言う
証拠不十分で困り果てた刑事は
親子丼を用意する
それを少年に食わせず、自分で三杯食う
己の中に、刑事の使命、女性の悲鳴、少年の困惑がある
そして時々、他人の恋を盗む、
そんな事件
被害者は刑事
少年が尋問する
お前がやったんだろ
机がガタガタ揺れる
鉄格子の外に小さな空が見える
指先もガタガタ揺れて熱い
刑事は疲れ果て
プライドとしてのゲジゲジ眉毛を削ぎ落とし
ちんけなペンで化粧を施す
女が死んだなら、俺が女になればいい
刑事は女になって、少年の将来へ向かう
スペーストラベル
君の眉毛が草原で
ぼくは一目で恋に落ちた

  終

発端は簡単なことでした
髪を掻き毟り
床に落ちる髪の毛を
見続けるだけの三日間
頭の髪の毛よりも
床に落ちた髪の毛の数が多くなった時
やっと歩き出せるのです
無限の荒野や
人肉が犇くプール
数々の爆弾に点火する夜
くしゃみを繰り返す細胞は
魔法を唱えるアニメキャラクターにそっくりでした
痴漢行為を働くおじさんや
毎日スーパーに出かける主婦や
空を見上げる女子高生と
縁側で寝そべる老夫婦
くしゃみをする度に
様々な人肉が目の前に現れるのです
歩く速度とくしゃみをする速度は微妙にズレていて
そのズレが恐怖を呼び起こします
だからいつも、
何も見えない闇に
安らぎを感じるのです
闇の中で髪を洗う人
何処かで見た事がある人
声を掛けようと思ったけど
もしぼくにやさしさがまだ残っているなら
そっとしておいてあげようと思いました
辺りでは、人肉を引きずる音や、脱ぎさる音が聞こえます
手術の機械音も聞こえます
呪文のようで
そこからまるでまた
宇宙が広がるようで
人と人がさよならを交わしているようで
その意味を誰も語ろうとしませんでした
ポケットをまさぐると
いつの間にかコインが貯まっています
何の意味も持たない
硬い硬貨です
それを一枚ずつ落としながら歩きます
その音で暗い闇が色付くけれど
くしゃみを繰り返す細胞は
衰える事がありませんでした
年を重ねる毎に
その速度は増し
音だけがぼくを追い抜いて
闇の中に消えていきました

  終

パンツ丸見え大作戦
ジーンズに穴が開く
おまえ 会話したい
仮病で学校休んでる息子と
ロボットの構造について会話したい
物語は悪と善の両側から描きたい
料理するなら素材選びから教えたい
くたくたに濡れたTシャッツ!
筋肉で破る方法を教えたい
パパと腕立て伏せしよう
やだよ、
パパとこんがりトーストむしゃりしよう
やだよ、
パパが引き篭もって、息子が立ち上がる
扉を開けてバイオレンス
誕生日のケーキ、鼻に突っ込む
鼻に突き刺したローソク、点火して二人で笑う
穴が開いたジーンズで練り歩く繁華街
人の目を気にせずに
今日は二人で星になりたい

  終

飛び起きる、、さっきまで寝ていたおれを
布団の中に閉じ込めたまま、、飛び起きた
終わりを探そうと、、必死に始める
始めれば、マルチカメラが動き出し
複数の人間と複数の道がホログラムで転送される
ぼくの知らないどこか
知らないところに哀愁を感じて
なぜだかそこに、母親や恋人を重ねる
るるるるる
誰かの歌声、
ペンチやハンマーを所持し
機械製品の修理や壁の破壊を試みる
うへひょ うへひょ うへ
小細工をかます道化師が、絵を描いては、ぼくを立ち止まらせて
何の為に飛び起きたのかさえ
忘れる
飛び起きる、、二枚目のおれを布団の中に閉じ込めたまま
三枚目のおれを起動させる道化師が、、飛び起きた
うへひょ うへひょ うへ
ロケットパンチのみを信じて
そろそろぼくは指先に脳を隠す
実際の脳は溶け出し、排泄され
川を汚すだろう
友達の家へ向かう途中
川原の土手で、人間というものがはしゃいでいる
夕暮れ間近の存在で、夜になれば消える
だから夜になる前に
友達の家に向かわなければならない
そんな時は大抵
パスポートを家に忘れてきて
国境を越える橋の上で
軍隊蟻に射殺されるのだ
世界に国境など、要らないと言うのに
時間があるから、また飛び起きてしまう
三枚目のおれを布団にやさしく寝かせて
少し変わった四枚目のおれが、、風呂と食事を済ませ
企画書のカラーコピーやボディピアス、婚約指輪などをはめて
また違う道から、友達の家を目指す

  終

苦しくなると丁度いい
そこにおいてのみ、泳ぎの研究が始まる
水着は何でもいい
ハイレグだろうが、スクール水着だろうが、裸だろうが
犬の泳ぎ方
顔を水面上に出し、前足と後足でガサガサかく
これはよくいう、ネッシーで、
遠くから見る人には、何の生物だか分からない
潜水艦
魚達と会話する
呼吸は無限で
そのかわり水圧が凄い
陸上で戦争が起きていても知らん振り
放心状態でファンタジー
潜水艦が通った後は
海が真っ二つに割れるという、
空は海の中に
犬は空を羽ばたく
潜水艦は水となり
海面と空、その境界線で会話
泡が立ち、町が生まれる
そこでのみ人は生かされ、殺される
ミクロの世界
顕微鏡が高値で売買され
人々は時代にバイバイされる
陸地に上がった生物は
戦争ばかりで
海と空を忘れる
陸上では泳ぎ方を学ぶ事が出来ない
だから人々は
海を見て、空を見て
途方に暮れる


自由詩 深夜の連弾 Copyright 狩心 2008-05-10 12:12:51
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