累石
岡部淳太郎

るいるいと
つみかさなり
荒涼をうめつくす石
  これは誰かの
  さいぼうであるか
それらの石が記憶の
かけらであるとしたら
この場所に吹く風も
意味を孕むであろうが
ただ過去を予告する鳥が
卵のように翼をまるめて
いちばんおおきな石の上にとまっているだけだ
おそらくそこには何の世界も
網目のように交錯する感情も
ないであろう
石はそれぞれに
ただのひとりきりで
周囲の石と無関係に
散らばっているだけで
逸脱の 声のない遠さを
しずかに示している
るいるいと
つみかさなり
ひろがっては
荒涼をうめつくす石
  これは私の
  さいぼうであるか
もしそうであるとしたら
私はすでにこわれている
この場所に漂う湿気も
雨天や晴天を告げることはなく
無音の倦怠として
目に見えぬ速度で
這っていくだけだ
これらの石を
つみあげては
くずそうとする
無為の手もなく
それぞれにひとりきりの
堅い実質としてある
それぞれ気ままに
あらたないのちを
想像するだけで
それをかたちづくろうとはしない
それが石の現在であり
ただそれだけでしかない
現実なのだ
るいるいと
つみかさなり
おりかさなり
荒涼をうめつくす石
  これはあなたの
  さいぼうであるか
もうとうの昔にこわれてしまって
まき散らされた者の
ありし日のすがたを
思い描いてみようとしても
無駄なことだ
あなたのいのちを
想像するだけで
それをかたちづくれるはずもない
るいるいと
ただるいるいと
つみ かさなる
石の群れ
人のいのちはむすうに
ただひろいだけの地に
散乱している



(二〇〇八年二月)


自由詩 累石 Copyright 岡部淳太郎 2008-05-02 23:20:22
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