四月
岡部淳太郎

病人は目を醒まし
言葉にならない声でさけんでいる
葬儀屋が切り取った脚を
箱に入れて去っていく
皮膚は黒かったが
骨は白いままだろうか
もっと遠い窓の向こうでは
咲いたばかりの花が
離れていったもののことを思うことなく
あつまってきたものたちをむかえている
いっぽうでこんな
奇妙な失い方もあるのだ
そのどちらも過去ではなく
ただの現在でしかないのだが
もうこれ以上はいい
もうこれ以上
失って何をおぼえるというのか
なにも
なにものも
あつまらない
遠い窓の向こうで
咲いたばかりの花が
微笑むように揺れるのが見える
皮膚は黒かったが
骨は白いままだろうか


二〇〇八年四月十五日、父が右脚切断の手術を受けた。
術後に、葬儀屋が切り取った脚を火葬するためにやってきた。




(二〇〇八年四月)


自由詩 四月 Copyright 岡部淳太郎 2008-04-23 14:32:25
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