水の庭
及川三貴

風の強い朝に吹き散らされた雲の放恣な広がり
僕たちの寝乱れたシーツのようだねという君を
横目に見ながら私は昨日身体の中で一度だけ
咲いた水の踊りを思い出そうと必死だった
テーブルの上に置かれた花はこの世界の十方にも
いつか咲くと囁かれて私は秘密を打ち明けられたかのように
身を震わせて 君の耳を優しく噛みたいと
私たちが作ったたくさんの形 どれも還らずに
吹き付ける息の中に寂しく廻る羽根
袖が擦れる乾いた海砂を掬い取って零す
一粒にいずれの君も居ないというあきらめが
曇天の昼過ぎから再び雨を呼んで
同じ音を聞く 雨は砂が落ちる音
私の嘘を暴く 君が朽ちる音
髪が凪いでひとときの静けさ
風の強いおしまいに 発した言葉
水面に落ちて 身体の中で一度だけ
咲いた 



自由詩 水の庭 Copyright 及川三貴 2008-04-19 00:45:14
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