時計の無い街
及川三貴

これはあなたの息
匂う糊 舌で封した
透ける封筒に夕暮れ
誰もいない堤防沿いの


机の下で凍える紙
打ち捨てられた 仄暗い
空白が罫線を飲み込む
宙を踊る文字は


部屋を横切る記憶たちが
引く車 色褪せた膝掛けに
飛沫を彩って 見えない
窓の外で崩れ落ちる


細い腕の想像を唄う
熱に浮かされた軸
震える唇 力のこもった
溝の跡 描き始める鉛筆の
細く削られた先


透明な手紙
なゆた と記す 有限
指を暖めて硬い角を探る
午後の時報から
零れ落ちる
これはあなたの息
遠い場所 時計の無い
あなたの街


自由詩 時計の無い街 Copyright 及川三貴 2008-02-20 22:38:40
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