さくらtjd
(1+1)/4

ウチらのオーナーは エネルギーの使い途をハンパなく間違えているとおもう。たった一週間のパーティの為に去年の夏から準備するとかマジでありえん、秋までストック作って冬はのんびり休んでからわぁーとはしゃいで景気づけしないと仕事始めないってどうなの。冬眠前からスプリングパーティの仕込とかリスだって、クマだってカエルだってやらないデス。ここまでしないと芽を出せないとかヌカしてどんだけ道楽カマしてくれるんでしょう、着てから十日も保たないようなヒラヒラの揃いの衣裳を何千も詰め込んでこのお祭りの為にだけ待機しているとか超キツイ。そんな安っちいヒラヒラをまとう僕たち私たちがウチらだったりするんだけど、5人一組でテーブルを受け持つことになっていて「日当たりの良い席からどんどんお客さんを案内出来るようにスタンバイしていってー」ってついに言われる。どんだけ待ったよ。毎年恒例の行事とはいえこのパーティ、オーナーがここにやってきてからのお得意さんというのがほんとにいないためほぼ身内だけの交流会と化しているらしい。これから育つ稼ぎ手たちが逞しく生長するために一種願掛けとしてやってるからやめられないのだという話もどこからか聞く。けど数集めすぎ。ウチらだってただジッと待ってたわけじゃなくて毎日ご飯食べたり眠ったりしてずっと春を待ってたわけだし。食費とか無駄に掛かって効率ワルい。オーナーが一体何をしたいんだかわからないままにイベントに付合わされている何千何万のウチら一同ってかなり間抜け。けど、これがウチの任務だし、きっちりこなそうじゃないか!とも思う。小さくて硬いドアからテーブル引き出してきて衣裳を丁寧に少しずつ外に引っ張り出してから背伸びすると、宙ぶらりんでそらが見える。同じテーブルのみんなが同じようなタイミングで背伸びしててかなりウケた。予想はしていたけど、お得意さんらしきは物陰すら見当たらない。やって来るのはほぼ100%冷やかし。仕方ないからウチらはダベって暇をつぶす。曇りの日は薄っぺらい服がなんか地味に見えてかなり鬱だからやめてほしい。雨とか、他のテーブルはまるごと吹っ飛ばされてて超ヒサンだったほんとやめてほしい。服出してる途中で流されてたりとかマジで可哀想だった。晴れててまぶしいくらいの日光がウチらの会場全体をざっくり照らしてくれていたりすると衣裳のチャチさも目立たなくてサイコー。むしろ夜は無駄に明るい。つうかむこうのブロックの方ばっかライトアップされてんじゃん。ぶらさがりながら眺める小さいお月さまがさみしそうにウチらの方を見ていて、むしろこっちはむやみに数いるだけなんですけどね、暇してますけどね、とか思ったりする。そんなこんなで目当ての客はほんとに来ない。オーナーがしびれを切らして「誰か呼び込みやってきてー」と言う。噂によるとこの一言でパーティーはぱらぱら解散していくらしい。さもありなん。客待ちであきあきしてた日当たりの良い席の子達がはーい、と生けるチラシとなる。だからといって ここに はなの木あります、ここに はな あります、どうぞどうぞ寄っといで、とか さらさら言わない。言う前にぽったり会場の真下に落ちる。正直やってらんなくなってきて、ウチらのテーブルでもいま落ちちゃう?まだ落ちないどく?とかっていう話が出て、落ちた子たちが風にざああと押されてどんどん地面を走っていくのを見てると、ほんと宙ぶらりんがいやになってくる。こないだ雨にぬれたところがかっこ悪くちぢんでてかなりブルー。早く、一瞬でいいから風に舞って、誘われるままに地面を駆けてみたい。どうせ落ちたらすぐに小さくなってかさかさ丸まってかすんで細かく消えて。根には根の、葉には葉の、花には花の事情があるって言ったって、どうせウチらこのバカ騒ぎが終わったらしみじみと忘れさられるだけじゃん。次はもっとマシな衣裳揃えなよ、と呟いて、会場下にいる子達みんなでプチマラソンしようぜって同じテーブルの子と約束を取り付けて、ウチもテーブルからふわっと離れた。この後オーナーが無駄に用意していたお客様用の手土産が、地面にボタボタ落ちるらしいんだけどそれはもう少し先の話。


散文(批評随筆小説等) さくらtjd Copyright (1+1)/4 2008-04-16 02:53:54
notebook Home 戻る  過去 未来