春の準備体操
佐野権太

学生たちが
そこここに円くあつまって
華やいでいる
どうしたら
あんなふうに笑えただろう
そういえば、もう
何年も卒業していない

花壇のすみで
孤立無援だった球根さえ
新しい黄緑をのぞかせて
確かな旋律を紡いでいる

春、と呼べば
君は飛んできてくれるだろうか
すわろー


**


芽吹きかけた桜の枝に
雀がとまって
細かく羽根をふるわせている
青い屋根の縁から
もういちわ
誘われるように
もういちわ

ときおり
ぱっと弾ける

またはじめから
整列がはじまる

ゆびを組んで
手のひらを裏返し
前に反らせる

胸を空にして
ひかりを吸いこむ

春だなあ
と思う


**


誕生日には
何が欲しいと聞かれて
迷わず、やぎ
と答えた
首には赤いバンダナを巻く

朝、起きると
やぎがいて
若草を食んでいる
ときおり
カランと
やわらかく鈴が鳴る

午後は
ひかりに透ける
耳の血脈をたどり
ちいさな鼓動を
確かめて眠る
ここにいればいい、ずっと

その鼻先に
ふれる







自由詩 春の準備体操 Copyright 佐野権太 2008-03-28 10:19:02
notebook Home 戻る  過去 未来