【短歌祭参加作品】最終電車
伊那 果

 出発を告げる笛の音 闇を裂く 背中押されるままに乗り込む

 さようなら 吐息の窓に書いた文字 消えるころにはすべてが終わる

 逆向きの電車に乗れば初夏(はつなつ)の第一話まで帰れるはずだ

 たどり着く場所はどこでもかまわない ふたりで乗りたかったA列車

 新しい切符を買えば何もかもリセットされる、という幻想

 たましいを抜かれたままの影の群れ 溶けてしまおう最終電車

 二番目の駅のホームに残された水たまりだけがこの恋の跡


短歌 【短歌祭参加作品】最終電車 Copyright 伊那 果 2008-03-19 12:39:10
notebook Home 戻る  過去 未来