ノート(世界)
木立 悟



世界は細さだった
世界は火の粉だった
隙間から見える声にあふれる
限りなく「はず」の少ない湖だった


飛び交う光の波の下に荒地があり
ぶつかりあう音のむこうに矢があった
世界は拍手だった
世界は弓だった


白は急に白になり
異なるものを消していった
低く大きな緑のもとへ
小さな違いたちは駆けていった
空は既に白だった
影はまだ地にあった


凪いだ湖に白は降り
水紋はどこまでも消えずに重なり
ひとつひとつが鏡になり
低い緑に集まってくる
異なるものたちを映しだした
午後がすぎても
夜は来なかった
世界は既に
世界ではなかった




小さな違いたちが目をあけたとき
白は降り終わり 流れ去っていた
湖は鏡のかけらに埋もれ
緑は静かに枯れていた
異なるものたちは手をつなぎ
緑の根元に輪をつくり
異なる涙をこぼしていった
小さな違いを伝えていった





世界は世界だった
たくさんの異なる世界のなかの
たくさんの小さな違いのなかの
ひとつだった





自由詩 ノート(世界) Copyright 木立 悟 2004-07-02 09:02:39
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