窓拭き
生田

 ぽこぽこ。と気泡が浮いていく雨の日の窓拭き。はいつまでも終わらない雑巾がけに苛々して爪先で突いたガラス。に途端現れた大きな目玉に窓拭きは睨まれ。窒息。するかわりに、するする。と咽元につっかえた釣り糸を伸ばした。海溝まで潜れもしないくせにそういうところだけは一丁前な。窓拭き。の上では水温計が沸騰しそうに笑っている。畜生この野郎。とのたまった窓拭きの咽から釣り糸と釣り針と天使の羽の疑似餌が、ぼこり。と咽から抜けたから墜落死体は嫌だな、と走馬灯が百人の天使よろしく窓拭きを取り巻く、なんと雲間から光。これでやっと仕事が進むと窓拭き。羽をせかせかと動かし雑巾をかける。けれど飛ぶのなんて初体験ときたもんだ。から風きり羽にバケツをぶつけて、今世紀最大の酸性雨です。みなさん逃げてください、マイク片手にパラパラと輪っかのプロペラを回して実況をはじめてみた。ものの窓拭きの夢はウルトラマンだった。宇宙怪獣も来てないのにみなさん逃げるなよ。と叫ぼうとマイクを強く握ってガオー。と叫んだ二分五十秒後になにかおかしいと気づく窓拭き。は最後の力を振り絞って雑巾を構えた。撃たれた。倒れた窓拭きの横にそびえるジオラマビルの屋上に、やっと始められるな。と眩い天井を仰ぎ窓拭き。の一日がはじまる。


散文(批評随筆小説等) 窓拭き Copyright 生田 2004-06-28 12:21:08
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