日常のひとくち
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そんなもの、と思った
くだらない
直視できずにうつむいた
若さを消耗している途中、それが今日のこと




わたしがかつて
人差し指にくるくると巻いていた、
彼の襟足はもう随分短いまま
毎日スーツを着て歩いていると言う
「あまり好きじゃない」街のなかを
鼻息でためいきつく癖
誰かの歩きたばこの煙が絡みつく
大人が目にしみる

満員電車のなかで開いた
文庫本のページから
毎日少しずつ文字を落としている
気づかれずに誰かに踏まれて

からだじゅうの細胞が
泣くのを我慢しているからとても重い
駅のホームには
暖かい明かりは似合わない

思い描ける想像のなかで最も平凡な人
になることは
すごくすごく難しいのかもしれない、と言った

気持ちを見せるなら
どれほどの言葉の束よりも
かきむしった胸のなかを見せればいい
彼が泣いたのは
やっと
わたしが眠ったあと
ひとり
湯気の立つ白いごはんのやわらかさと
部屋にある自分以外の人の気配に

繰り返しているのじゃなくて
消耗していく日常のひとくち
彼の体は
明日
少しだけ軽くなる




自由詩 日常のひとくち Copyright ________ 2008-02-04 21:21:13
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